腸壁を削って美味い物を食す

元潰瘍性大腸炎(軽症)患者であった筆者(現在は完治済)が、症状が再燃するリスクを覚悟してでも食べたいと思うほど美味しかった逸品(主に麺類)を紹介していくブログです。不定期更新ですが、地道に書き進めていきます。よろしくおねがいします。

815. ある閉ざされた浴室からの脱出

これは、約1年前に起きた本当の話である。

 

序章

とある日の仕事終わり。

疲れて入浴しながら、

翌日のゴルフに備えて、

kindleでレッスン動画を見ていた。

 

最近買ったkindle fireがなかなか便利で、

LINEや電話はできないものの、

本も読めるしwebブラウザもあるため、

入浴しながらそれらを楽しんでいると、

ついつい長湯になってしまう。

 

「さて、そろそろ上がろうかな。」

 

この日もいつものように20分程が過ぎ、

軽くのぼせかけていた。

一人暮らしの為、

風呂場でのぼせても誰も助けてはくれない。

この日はなんとかのぼせる手前だったが、

少しふらつきそうになった。

「明日からはお湯の温度を下げなきゃなー。」

そんなことを考えながら、

浴室のドアノブを下に押し下げたその瞬間、

 

ベキッ……!

 

奇妙な音が聞こえた。

左手で握っていたはずのドアノブは・・・、

跡形もなく消えていた。

 

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リアル脱出ゲーム

「ある閉ざされた浴室からの脱出」

難易度☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

■ストーリー

気がつくと、あなたは浴室の中にいた。

しかし、ある違和感を抱く。

扉にあるはずのドアノブが無い。

押しても引いてもびくともしない扉。

みるみる下がっていく水温。

せまりくる尿意。

どこからともなく聞こえる、不協和音…(洗濯機)

どうやらあなたは、

この恐ろしい浴室に閉じ込められてしまったようだ。

唯一、役に立ちそうなものは手に持っていたkindle fire 

あなたはこの浴室に隠された、すべての謎を解き、

ここから脱出することができるだろうか?

 

 

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第2章

折れたドアノブを手に、しばらく茫然としていた。

ドアノブって折れるものなのだろうか。

まずは折れたドアノブを観察してみた。

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よく見ると、金属の軸の部分が錆びており、

見事にねじ切れている。

思い返せば、この家はもうすぐ築25年。

その間ずっと湿気にさらされてきて、

なおかつ毎日ひねられ続けてきたわけで、

太かったはずの金属もねじ切れるわけである。

 

ということは、そのねじ切れた部分を手で回せば、

きっと出ることができるだろう。

 

再びドアノブのあった場所を見てみた。

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これは無理だ。

指はとても入りそうにない。

仮に指先が入ったとしても、

約10㎝のノブで回していた軸を、

指だけの約5mmの小さな半径で回しきるには、

約20倍の力が必要。

そんな力、指先だけでは発揮できるわけもなく、

到底、無謀な挑戦である。

 

まさかこんなところでモーメントの計算が役に立つとは。

早々にドアノブを諦める決断ができたのは、

力学を学んでいて良かったと久々に思った。

 

ちなみに、うまくやればドアを枠ごと外せるのでは、

と思って、そのような仕組みが無いか、

および力づくでどうにかならないかは調べてみた。

でも、どうにかなる代物ではなかった。

 

第3章

ゲーム開始から15分。

ドアノブを諦めたことにより、

本格的に閉じ込められたという自覚が湧いてきた。

このまま風呂場で一晩過ごすことになるのだろうか。

とりあえず、飲み水は何とかなる。

多少寒くはなってきたが、

お湯を出せば再び温まることはできる。

そう考えれば、一晩くらいならなんとかなりそうだ。

いや、まてよ。

そもそも一晩で済むのだろうか?

朝になって、誰かが来てくれる確証もない。

というか、誰もこの状況に気づけるはずがない。

携帯は風呂の外だから、連絡もできない。

 

翌日はゴルフの約束があった。

自分が約束の時間に来なかった場合、

寝坊か何かだろうとは思われるかもしれないが、

「どこかに閉じ込められているかも?」

とは夢にも思わないだろう。

 

そうなると、異変に気付くとすれば、

丸一日以上音信不通になってからと思われる。

 

ゴルフそれ自体については、

自分が行けないことは仕方ない。

でも、他の3人は自分を置いて、

無事に間に合うようにゴルフ場に行ってくれるだろうか?

自分のせいで3人をキャンセルさせてしまっては申し訳ない。

なんとか連絡したいが、

kindleではLINEが使えないのでどうにもできない。

3人がゴルフに行ったとして、

帰ってきてもまだ既読にならない自分を心配して、

何かしら動き出してくれるとしても夕方だし、

下手すれば、数日後という可能性もあり得るな~。

生きていられるかなあ。

 

そんなことを考えながら、

再びkindleを手に取った。

 

まてよ。

youtubeが見れるということは、

google系にはアクセスできるのか。

 

ということは、gmailが使える!

メールで両親に今の状況を伝えれば、

合いカギをもって家に来てくれるはず!

 

これまでkindlegmailは使ったこと無かったが、

アクセスしてみると、無事にログインできた。

これは勝った。

 

このときはそう思った。

 

しかし、メールを打っていて気付いた。

肝心の両親のメールアドレスがわからない。

 

普段使っているiphoneならば、

当然ながらアドレス帳が連動されているため、秒でわかる。

だが、この端末上ではそれが無いからわからない。

ここ数年は両親ともずっとLINEでやり取りしていたので、

gmailから両親のアドレスにメールを送ったことが無かった。

 

履歴を探してみたものの、

出てきたのは両親のau時代のアドレスのみ。

すでにauは解約しているため、届くはずがない。

 

かなり昔のPCのアドレスが出てきたので、

そこには送ってみたものの、

おそらく返事は帰ってこないだろう。

終わった。

 

また、ダメ元で、

合いカギを持っている不動産屋にもメールを出してみた。

 

しかし、現在時刻は23時台。

営業時間外のため、こちらも厳しいだろう。

 

今度こそ終わった。

そう思っていた。

 

第4章

LINEもgmailも無理で、

助けを呼ぶことを半ば諦めかけていたのだが、

よくよく考えてみると、

他のSNSは試していなかった。

twitterinstagramのDMである。

アプリをインストールしてログインしてみると、

DM機能は、問題なく使えそうである。

 

まずは今の状況を写真付きでツイートしてみた。

 

続いて、仲のいい友人を中心に、

ひたすらDMで

「助けてくれ」

と呼びかけていった。

 

0時も近かったので、

どのくらいの人が反応してくれるかわからないが、

反応してくれた人にお願いして、

実家に電話をかけてもらおう。

両親もさすがに家の電話ならとるはず。

仮に寝てしまっていたとしても、

電話の音で起きてくれれば、

助けに来てくれるかもしれない。

 

そんな一縷の希望を頼りに、

祈る思いでDMをしていった。

 

その間、数名のフォロワーさんから、

今までにない数のリプやいいねを頂き、

少し気持ちが落ち着いた。

状況は決して「いいね」ではなかったのだが。

 

そんな中、

高校の友人の一人から連絡が入る。

「なんかしてほしい??」

 

急いで実家の番号と要件を送り、

連絡を待つことに。

 

よっしゃ!これで助かった。

そう思った。

 

しかし、結果は無情にも

「留守番電話」

 

終わった。

留守電にはメッセージを残してもらったが、

見るのは翌朝だろう。

 

いや、まだ、手はある。

携帯電話の番号だ。

自分がまだ携帯電話を持っていない頃、

小学生の頃に、

何かあったときのために暗記した親の電話番号が、

20年の時を超えて脳内に蘇った。

自分の記憶力に感謝しながら、

メールに番号を打ち込み、連絡を待った。

 

「留守電にもならん」

 

詰んだ。

 

第5章

万が一、親がトイレで起きたときに、

留守番電話に気付いてくれることを祈りつつ、

1時ごろまで半身浴で粘りながら、

脱出方法をひたすら調査していた。

これは調べてみるしかない。

 

「風呂場 脱出」

ただ、このキーワードで出てきたのは、

・アプリとしての脱出ゲーム

・youtuberが企画として風呂場で行った脱出ゲームの動画

ばかりであった。

 

検索ワードを変えてみる。

「風呂 閉じ込められた 脱出」

いやー、調べてみるもので、

針金を使う方法、

ハンガーを使う方法、

など、いろいろと出てくる。

 

ポイントは、

ラッチをいかに外すか?

ということらしい。

 

↓ラッチ

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床にこんなものが転がっていることに気付いた。

 

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おそらくドアノブの部品のひとつだろう。

これをひっかければ開くかもしれない。

そう思って、ラッチにひっかけようと、

カリカリと何度も試すこと小一時間・・・

無理だった。

その後も、

様々な方法を試しては、断念する。

その繰り返しであった。

 

そしてついに、

kindleの電池が無くなってしまった。

 

第6章

こうなったらドアを壊すしかない。

 

kindleの電池が切れてしまったので、

外の世界との通信は途絶えてしまった。

これ以上何かを調べることもできない。

 

こうなったら、

もうドアを破壊してでも外に出るしかなかった。

 

ただ、ドアなんて破壊できるものだろうか、

プラスチックではあるものの、結構硬い。

幸いにしてガラスではなかったし、

網が入っているタイプでもなかったので、

すりガラスのようになっている部分なら、

割れるかもしれないなー、とは思った。

 

ただ、割り方がわからない。

それに、手にあるのはkindleだけ、

このなけなしのkindleを思い切り投げたところで、

割ることはできるのだろうか?

いや、この質量では厳しいだろう。

 

最終手段だが、

自分の体を使って割れないか?

黄金の右ストレートで。

いや、それも厳しい。

何より怪我が怖い。

翌日のゴルフのことを考えると、

なるべくなら手を使いたくない。

 

仮にゴルフを諦めたとしても、

利き腕の右手は使いたくないし、

左手ではパワーが出なさそう。

いや、右手でもパワー不足で、

ドアを割ることはできないだろう。

運動はしてきているものの、

パンチを打つ練習はしていないので、

拳で出せる力なんて、たかが知れている。

 

体全体で行くのはどうか?

質量は充分かもしれないが、

それこそ、破片をもろに喰らったら、

確実に出血するだろうし、

目にはいったりしたら大変だし、

やめておいた方がよさそうだ。

いやーどうしたものか。

 

絶望の中、自分の記憶の中から、

脱出方法に関する情報を探していた。

すると、昔テレビで見た「車からの脱出方法」を思い出した。

洪水の時に、車の窓を割って脱出する方法。

ビニール袋に10円玉を数枚入れて、

ぐるぐる回すことで遠心力でスピードを上げて、

エネルギーを1点に集中させることで、窓ガラスを割る。

これと似たようなことができないだろうか?

何か硬いもの・・・。

 

見つけた!

シャワーヘッドだ!

 

たまたま、1か月ほど前に、

新しいシャワーヘッドに買い変えていて、

金属製になっている。

さらに、ホースによる長さもあるので、

ある程度、遠心力も使えそう。

ぐるぐる回してスピードを上げていけば、

ドアを割れるかもしれない!

 

あとの問題は割る位置だけだった。

正直、どのように割れるのかわからないが、

反対側のドアノブに近い場所を割ることができれば、

そこから手だけを伸ばして、

外側のドアノブをガチャっとできるのでは。

 

これならいける!

 

閃いてからは速かった。

どのように割れるかわからなかったので、

破片が飛び散ってもいいように距離を取る。

シャワーヘッドの先端から少しだけ手前側を握ると、

カウボーイのようにぐるぐると回してみる。

これならいけそうだ。

ただ、あまり長く持ちすぎても、

コントロールが効かない。

狙いはドアノブの横の少し上。

ピンポイントのコントロールが要求される。

勝負は一回限り。

ほどよい長さでぐるぐる回しながら、

タイミングを計る・・・。

 

そして、

最終回1点リードの2死満塁、

カウント3-2から投じる、

渾身の一球をイメージしながら、

シャワーヘッドを投じたのであった。

 

第7章

ベキッ・・・!

という鈍い音と共に、

シャワーヘッドがドアを破っていき、

・・・ッカラン・・・!

という乾いた音が廊下に響き渡った。

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↓外側から見た図

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厚みのあるプラスチックが、

綺麗な断面で割れていた。

奇跡的ともいえるくらい、

狙い通りの綺麗な割れ方をしてくれて、

破片も全く飛び散らなかった。

今思えば、本当にラッキーであった。

 

空いた穴から手を伸ばして、

外側のドアノブを操作して無事脱出できたのだった。

 

GAME CLEAR

 

ということで、

3時間の長い戦いが終わった。

 

まあ、ドアを壊す覚悟を決めてからは、

そこまで時間はかからなかったが、

なるべくなら壊したくなかったので、

やむを得ない判断だったと思う。

 

なお、脱出時点で、

ゴルフの集合時間まで3時間を切っており、

ほぼ寝られなかったので、

スコアが散々だったことは言うまでもない。

 

振り返ってみると、今回のケースだと、

仮にkindleではなくスマホを持っていたとしても、

結局、ドアを破る以外に方法が無かった。

合鍵持っている両親は、就寝中。

マンション管理会社は、営業時間外。

警察に電話で来たところで、

管理会社を経由しないとオートロックや鍵を解除できない。

 

そう考えると、

トイレなども閉じ込められる可能性があるので、

一人暮らしをしている時には気を付けなければと、

改めて思った。

 

また、脱出後に聞いたのであるが、

プロ独身として名高いTBS安住アナによると、

風呂とトイレは少し開けておく。

とのこと。

この情報を閉じ込められる前に知ってればなぁ。

 

終章

あれから、1年が経ち、

風呂場は完全にまるごとリフォームし、

今では快適に入浴することができている。

洗面所と風呂場といっぺんに合わせて、

150万円くらいだっただろうか。

でも、20数年前のシリーズなので、

ドアだけ変えるわけにもいかず、

仕方がない出費であった。

給湯器がなかなか入らなかったことで、

納期は遅れてしまったものの、

湯はり予約ができるようになったり、

お湯が出るのも早くなったり、

いいことづくめである。

 

また、ドアに関しても、ドアノブタイプではなく、

ドアを開く方向に力をかける方式に変わっており、

お風呂メーカーもしっかり対策してきているのだなと、

感動したものである。

 

長々と書いてきたが、

伝えたいことは以下のふたつ。

・ひとりのときはドアは閉めない

・壊れる前に交換

 

みなさまも、お気を付けください。