2019年7月19日に公開された「天気の子」。
言わずと知れた新海誠監督の最新作である。
公開初日は仕事で行けなかったため、2日目となった7/20の朝一で見てきた。
「君の名は。」の空前の大ヒットから早3年。
いったいどんな作品になるのか、日本中に注目された状態での次回作。
監督自ら「『君の名は。』に怒った人をもっと怒らせたい。」と語るほど、
ある種の覚悟をもって作られた映画である。
最初、感想を書き始めたときはネタバレなしで書こうと思っていたのだが、
書いていくととてもネタバレなしでは書ききれないため、
以降はネタバレ全開で書いていこうと思う。
なお、上映後に本屋に走って小説版を買い、喫茶店にて読了しているため、
映画は見たけど小説はまだ読んでない人にとってもネタバレになってしまうことは、
あらかじめご了承いただきたい。
ネタバレなしで言える範囲としては以下の5点
・個人的感想としては「名作」
・今作も映像、音楽は最高
・新海作品ファンは絶対見ておくべき作品
・「君の名は。」を越えたかと言われると微妙なところ
・賛否両論ある作品だとは思う
というところだろうか。
ひとまず、小説版の表紙とともに…
ネタバレ回避スクロール。
ということで、
ストーリーを追いながら感想を書いていく。
(1)起 ~ふたりが出会うまで~
まずは陽菜(CV:森七菜)。
病院で病床の母を見舞うシーンから始まる。
すでにここから映像美が凄まじい。
雨の1滴1滴が恐ろしく美しく、期待を超える綺麗さ。
新海作品特有のモノローグとナレーションが続いた後、
予告編でもフィーチャーされていた、水滴が昇っていく光景。
ビルの屋上にて、陽菜が「天気の巫女」となったシーンである。
雨雲ってこんなに美しかったっけ?
と思わせられるほど、水が生き物のように舞い踊っている。
毎度毎度、新海作品の「水」の表現には驚かされる。
※個人的には、ここでライバル企業の製品が恐ろしいほど忠実に描かれており、別の意味で鳥肌が立っていた。
もうひとりの主人公帆高(CV:醍醐虎汰朗)は島から脱出してきた家出高校生。
中年のおじさんにたかられたり、
ネットカフェ住まいだったり、
怪しい人にボコボコにされたり、
偶然ピストルを拾ってしまったり、
など、歴代の主人公ではトップクラスの運の無さ。
そんな中、ふたりが出会うのは陽菜がバイトしているマクドナルド。
ビッグマックを陽菜がおごるわけだが、
このビッグマックの「美味しそう感」が半端ではない。
蓋を開けた瞬間にパンがふっくらと膨らんできたり、
見るだけで匂いが想像できてしまうような映像の表現力は本当に凄いと思う。
その後帆高は、
フェリーでたかられた須賀さん(CV:小栗旬)のところで、
女子大生の夏美(CV:本田翼)と一緒に住み込みで働き始める。
帆高くん、さすがの主人公力を発揮し、適応能力が異様に高い。
このシーン、小説版では、須賀や夏美の視点からの文章もあり、
映画で描かれていない部分がちゃんと補足されているのが良かった。
なお、この事務所の名前「K&Aプランニング」であるが、
のちに須賀の名前「ケイスケ」と妻「アスカ」が由来となっていることがわかる。
そして、主人公ふたりが再会。
不良に絡まれていた陽菜を助けようとするも、
苦戦してボコられたあげく、拾ってしまったピストルを使ってしまい、
なんとか助けることができた女の子が、実は、探していた晴れ女だった。
というなんとも偶然続きな展開。
このとき、陽菜は「もうすぐ18歳」というが、実は逆鯖読みをしていて15歳。
逆鯖読みのおかげで帆高はこの先ずっと「陽菜さん」呼びである。
(2)承 ~晴れ女ビジネス~
陽菜と陽菜の弟である凪くん(10歳・モテモテ)とともに、
陽菜の「晴れを操る力」を使って晴れ女ビジネスを開始。
1回3400円というのがまた絶妙な価格設定である。
自分なら草野球の試合の日に使ってみたいなーとのんきに思っていたが、
よくよく考えると「今年の夏は例年以上に雨が多くて…」という設定が、
偶然にも現実世界とリンクしていて、正直鳥肌が立った。
そういえば、もう2か月以上草野球をやれていない。
そんな「毎日雨続き」という設定のおかげで、晴れ女ビジネスはすこぶる順調。
晴れにしたい人をどんどん幸せにしていく。
雨が晴に変わっていってみるみる明るくなっていく様子は、
見ていて気持ちの良いものであり、
とくに最後の花火大会はなかなかに幻想的であった。
ただ、代わりにどこかが雨になっているような描写がちょこちょこあり、
爆弾雨のような現象が多数起こっていて、不安感が煽られる。
このあたりはうまい伏線だなーとおもう。
ちなみに、この晴れ女ビジネスの客のひとりに「立花さん」がいるのだが、
そのうち孫が登場し、聞き覚えがある声だなーと思ったら神木隆之介の声だった。
後に「タキ」と呼ばれて瀧くんであることが確定した瞬間は、歓声が挙がった。
(3)転 ~晴れ女の終わり~
晴れ女ビジネスの最後のお客は、帆高の上司である須賀さん。
娘と会うために晴れさせてほしいという依頼。
須賀さんのバックグラウンドもわかり、夏美が須賀さんの姪であることも明らかに。
凪くんは須賀さんの娘にもモテモテ。
にしても凪くんはよくおモテになる。
陽菜へのプレゼントについて、帆高から相談された際の一言がこちらである。
「付き合う前はなんでもはっきり言って、付き合った後は曖昧にいくのが基本だろ?」
以降では、私も穂高と同じく、敬意をもって「凪センパイ」と呼ばせていただく。
ちなみにこの凪センパイ、
今カノが花澤カナ(CV:花澤香菜)で、
元カノが佐倉アヤネ(CV:佐倉綾音)である。
このあたり、芸が細かすぎて素晴らしい。
なお、その後、凪センパイのアドバイスに従い、指輪を買いに行った帆高。
3時間かかって指輪を選んだらしいが、なんだか店員が聞き覚えのある声。
声がした時点でうっすら「もしかして」と思ったが、
その店員のネームプレートが「宮水」だった瞬間は鳥肌であった。
前作の主人公が二人とも登場するという、ファンにはたまらない演出であった。
最後の晴れ女ビジネスが無事終了すると、状況は一変。
プレゼントの指輪を渡して、告白しようとする直前に、帆高が指名手配されてしまう。
須賀さんからは地元に帰れと言われるが、結局3人で逃げることに。
そして襲い掛かる異常気象。
真夏なのに雨、雷、そして雪。
なんとかホテル逃げ込み、難を逃れる。
無事、誕生日プレゼントの指輪を渡すことにも成功するが、
そこで衝撃の事実が。
晴れ女(天気の巫女)の力の代償で、陽菜の体が消えかかっているのだ。
しかも、陽菜が「人柱」となって消えることで異常気象が収まるという。
ここでの帆高のモノローグがたまらない。
「神さま、どうか、もうすこしだけぼくたちをこのままでいさせてください」
完全にフラグである。
ある意味フラグ通り、翌朝になると陽菜は消えており、異常気象は解消。
しかもいきなり警察が登場して帆高は捕まってしまう。
陽菜は犠牲になってしまったのか?
そんなことはさせないと帆高は警察署から脱走。
陽菜が居ると思われる代々木の廃ビル屋上へと向かうのであった。
途中、夏美が運転するバイクに乗って追っ手を撒いていく。
同時に、須賀さんのところにも刑事(CV:平泉成)が捜査に来る。
このときの刑事と須賀さんのやりとりがたまらない。
妻と娘を思い出して葛藤する須賀さんと優しく渋い平泉節。テッパンである。
バイクで逃げる帆高と夏美だったが、
途中でバイクが水没してしまい、夏美とはここで別れて帆高は線路を走っていく。
小説版ではここでの夏美の視点のモノローグがたまらない。
モラトリアムの終わりを実感し、大人になる決意をした夏美と、
思春期真っ只中で、感情のままに突き進む帆高の対比が素晴らしい。
結局、代々木のビルで警察に追いつかれる。
銃撃戦となるも、須賀さんと凪センパイの活躍もあり、
帆高はなんとか鳥居へとたどり着き、上空へと向かう。
帆高はたとえ異常気象になってでも陽菜を取り戻すことを選んだのだった。
(4)結 ~3年後~
雨はその後3年が経っても止まずに降り続け、関東平野は3分の1が水没。
レインボーブリッジが水没している様は衝撃であった。
23区の東側エリアは余裕で水没だろう。
帆高はいろいろとやらかしていたものの、経過観察処分で島に戻ることに。
3年が経って無事に高校も卒業し、観察処分も明けて東京へと向かい、
立花さん(瀧の祖母)や須賀さんと会うシーンが描かれる。
なお、須賀さんの事務所は大きくなっており、社員も数名いる。
同時に子猫だったアメ(猫の名前)もでかくなっていたのは笑った。
なお、そこで不意に飛び出す須賀さんの名セリフ
「まあ気にすんなよ青年。世界なんてさ、どうせもともと狂ってんだから。」
一文だけ見ると綺麗なセリフではないし、単独では意味不明なのだが、
物語をここまで追ってからのこのセリフの破壊力たるや尋常ではない。
なんか、心に突き刺さったというより、
肩の荷がスッと軽くなったような、そんな気分である。
そしてそれが、ラストシーンの帆高と陽菜の再会時の、
「僕たちは、大丈夫だ。」
に繋がるわけである。
天気は雨だが、心に少しだけ晴れが垣間見えたような、
登場人物の心情と情景が完璧に一致している素晴らしいラストだったと思う。
そこでかかるのは、RAD WIMPS野田洋次郎の書き下ろしED曲「大丈夫」。
新海監督はこの曲から着想を得て、ラストシーンの演出を決めたらしい。
その曲に込められたメッセージについては、
小説版の「あとがき」にて新海監督が、
そして、その直後の「解説」にて野田洋次郎が、それぞれの立場から語っている。
(5)エンドロール、小ネタ
今作もエンドロールには驚かされた。
以下の3名の名前があったからである。
「勅使河原克彦」
「名取早耶香」
「宮水四葉」
え?どこにいた?
「君の名は。」を5回以上も見ていた自分としては情けない限りである。
ネットの情報によると
勅使河原&名取→お台場フリーマーケットの近くで観覧車に乗ろうとしているカップル
宮水四葉→陽菜が天に昇って行って晴れていった時に映る女子高生
とのこと。
正直言って、全く気が付くことができなかったので、
次回見るときは、しっかり注目して見逃さないようにしたい。
また、小説版で気が付いたのだが、
3年後の立花家に飾られている写真の描写に
「お孫さんの結婚写真」があるのだ。
「お孫さん=立花瀧」ということになるので、
つまりは、瀧が結婚した、ということになるのだ。
まあ相手は明示されていないが三葉にちがいない。
いやーこれは嬉しい。
これも映画では気が付かなかったので、
2回目に見る際には部屋の中の写真に注目してみていきたいと思う。
ということで、長々と書いてしまったが、
生きづらい世の中で懸命に生きる少年少女の一生懸命な姿と、
それを支える大人たちのカッコよさが非常に印象的な作品であった。
そして、前作では村(世界)を救うという王道なラストでありながら、
今作では二人で生きていくために異常気象を受け入れる(世界を救わない)という、
近年の映画では珍しいラストであったと思う。
君の名は。のストーリー解説にて、
「境界を越えて、戻ってくる」という、昔からある物語の基本構造の話があったが、
今回はその基本構造からは逸脱して、
「境界を越えて、戻らないことを選んだ」物語となっている。
言ってしまえば、「千と千尋」であちら側の世界に行った千尋が、
そのままトンネルの向こう側でハクと一緒に幸せに暮らすエンド、
的なことである。
それもあって、今回のラストは正直賛否両論はあると思うが、
「陽菜も助かって、異常気象も収まって、よかったね。」
というご都合主義的なハッピーエンドにしてしまっては、
ここまで心に深く刺さる映画にはならなかったと思うし、
最後の「大丈夫だ」に繋がる一連の流れは素晴らしかったと思う。
ということで、賛否両論はあるかもしれないが、
近年見てきた映画の中でもトップクラスの名作だと思うし、
期待通り「何度も見たい」と思わせられる映画であった。
素晴らしい作品をありがとうございました。