腸壁を削って美味い物を食す

元潰瘍性大腸炎(軽症)患者であった筆者(現在は完治済)が、症状が再燃するリスクを覚悟してでも食べたいと思うほど美味しかった逸品(主に麺類)を紹介していくブログです。不定期更新ですが、地道に書き進めていきます。よろしくおねがいします。

366.『白い巨塔』山崎豊子 感想

全5巻の大長編。

ようやく読み切った。

kindleで5冊の合本版を購入して放置して約1年。

読み始めて何度か挫折したが、9月と10月の連休を利用して読み切った。

あらすじを書くのも大変なので、読み終わって思うことを書きなぐってみる。

なお、ネタバレ配慮していないので、懐かしいドラマのタイトルバックついでに回避スクロール。

 

 

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さて、読み終わった後にまず浮かんできた言葉は、

「因果応報」

である。

あれだけ他人の気持ちを踏みにじってきて、それが綺麗にすべて跳ね返ってきている。

人が死んでいるので不謹慎かもしれないが、正直ある意味スカッとする終わり方であった。

ひとことで片づけてしまえば、医者の不養生であり、里見の言う通り、財前は「かわいそうな奴」である。

癌専門医が癌を初期発見できずにステージ4に陥り、抗がん剤に頼らざるを得ないところなんて、なんという皮肉だろう。

そこに至るまでのストーリー構成が凄まじい。

 

以前、2003年度版のドラマでみたことがあるのだが、そのときはざっくりしたストーリーしかおっていなかった。

当時は、中学生だったので、どういうところが面白いのかは全く分からず、

裁判で唐沢寿明江口洋介が争ってて、最後唐沢死んでったなーくらいにしか思っていなかった。

財前が教授になって、裁判して、負けて、最後に死ぬ。

そのざっくりしたストーリーだけ知った状態で、原作を読み始めたのだが、

そこに至るまでにこんな紆余曲折があったのかと、その奥深さを改めて知ることができたのは良かった。

 

読み終わった後に、いろいろな人の感想を読み漁っていて驚いたのは、

「財前支持派」の多さである。

正直なところ、私は、言葉は汚くなってしまうが「財前ざまあみろ派」であり、

財前派か里見派かといわれれば、断然「里見派」なのだが、

「里見先生はいい人だが好きにはなれない」とか「あまりに理想を追い求めすぎていてつまらないから嫌い」とか、そんな意見もあった。

それどころか、財前の方が「人間味がある」という意見すらあって、理解に苦しむ。

こんなことを書くと、視野が狭いだとか、人間のとしての器が小さいとか、いろんなことを言われてしまいそうだが、

研究開発に携わる一人の人間としては、里見先生のように、たとえ自分の地位を失うようなことがあっても医療の発展のために公平な立場から意見を言えるだけの強さを持っていたいと思う。

 

また、小説でいえば単なる伏線にすぎないのだが、癌の初期症状と思われる描写がされているときに、里見先生がちゃんと体調に気を使って一度検査するように進言しているところも素晴らしい。 

愛人のケイ子さんが里見に会いに来てすべて悟って帰っていくシーンがなんともいえない名シーンであった。そのときも癌の初期症状を里見が見破っていたことに触れていた。

 

あとは柳原先生。ドラマでは伊藤英明が演じていた。 

人間味の話が出たが、私はこの人こそ、一番人間味があると思う。

上司に歯向かえず、いいように使われ、責任を感じ、出世や結婚などに目がくらみながらも苦しみ続け、そして最後の最後に良心の呵責に耐え切れずに、勇気を振り絞って真実を語る。

私の印象では、この人こそ、一番人間味がある。

 

ドラマとの差分として、ドラマでは里見が財前に真のCT画像を見せ、財前が癌であることを認めたが、

原作では最後まで認めなかった。(周りの人たちとともに隠した)

それでも自覚症状などから、自分の癌の具合を完璧に言い当てたうえで、遺書として残している。

自身が癌であることを確信してからは、次に里見と会ったときにはすでに錯乱状態。

その錯乱状態の演出もなかなかの壮絶さ。

このあたりの終盤の演出は、個人的には原作の方が好みである。

 

どこかで見るチャンスがあれば、もっと昔の田宮二郎版のドラマも見てみたいものである。

 

ちなみに、原作を読んでいて、最も驚いたのは、あとがきである。

なんと、作者の山崎豊子さんは、医療知識ゼロの状態から書き始めたという。

とてつもない取材力。

自分は外科手術に立ち会ったことはないが、なんだかリアリティを感じた。

手術中の臓器の様子や触感などはどうやって取材したのだろうか。

動物か何かの内蔵を手に取った感覚からなのだろうか。

 

とにかく、深く心に残った作品になったのは間違いない。

生き方について考えさせられることがたくさんあった。

それでもやっぱり私は里見先生のように、正義を貫き、まじめに誠実に生きていきたい。たとえ政治的な部分で負けたとしても。

そして、自分の体は大事にしなくてはと、改めて感じた。

ちゃんと、年に1回、内視鏡検査しよう。

 

また、これは偶然だが、私が第5巻を読み終わったなんとその日に2019年に再度リメイクするというニュースが流れた。

なんてタイミングだろうか。偶然にしてはできすぎている。

財前は岡田准一

たしか37歳。原作はたしか44歳だったので、少し若すぎる気もするが、海賊と呼ばれた男でものすごい年齢幅を演じ分けていたのできっとそれらしくなるのだろう。

まあ5夜連続とはいえ、あのボリュームを10時間ではなかなか難しい気もする。

5分冊の1冊がたった2時間なわけだから。

どのエピソードを削るのか。最初の教授選はごっそり削られるのかも。

そして、脚本は最新の医学レベルに置き換えて作っているとのことなので、その場合、果たして裁判の展開やラストの死因は一体どういう形になるのだろうか。

非常に楽しみである。