衝撃的なタイトルでずっと気にはなっていた。
病気もので泣けるということで、セカチュー的な話なんだろうという予想はあった。
でもその予想は良い意味で裏切られた。
たしかに泣ける話ではあると思うけど、人間関係や人生に対する考え方についても、学ぶところが多かった。
以下、ネタバレ注意。
冒頭で既に彼女は亡くなっており、キーワードの「君の膵臓をたべたい」と書いたメールを僕が彼女に送っているというところまでは明らかになった状態で物語が始まる。
どのようにしてその場面に至ったのかを追っていくという展開。
「僕」が、彼女が病気であり余命がわずかであることを知ってしまったのをきっかけに、
これまで誰にも心を開かなかった「僕」と、他の誰にも病気を打ち明けていない「彼女」の交流が始まる。
一見正反対で、気が合わなそうに見える2人が次第に打ち解けていく様子や、食事や旅行などでの小気味好い会話がとにかく面白い。
間近に迫った「死」を全く気にしない様子であっけらかんと喋る「彼女」と、それにまったく気を遣わない様子で軽口を返す「僕」という関係性がすごくしっくりきていて、悲しい物語のはずなのに、そこまで暗くならずに読み進めることができる。
その一方で、不意に入ってくるモノローグや仕草の描写などから、ドキッとさせられる場面もあって、その緩急が凄い。
印象に残った場面としては、2つあって、
1つ目は、僕が「生きる意味」を質問するシーン。彼女の回答が素晴らしい。
「生きるってのはね、きっと誰かと心を通わせること。そのものを指して、生きるって呼ぶんだよ。」
これは彼女の価値観の中で語られたことではあるんだろうけど、まさにその通りだと思う。人はひとりでは生きられない。
この辺のやり取りは、FF8のスコールとリノアのやりとりにも少し似てるなと思った。
2つ目はやっぱりタイトルの伏線回収でもある、遺書の中の「君の膵臓を食べたい」。
結局、正反対なふたりは、お互いが自分の足りないところを持っているということを感じていたようで、爪の垢を煎じて飲みたいというところから、例の発言に繋がったわけだけど、
そこに至るまでの過程をここまで丁寧に描かれて、僕側に感情移入しながら読んでいるとね、涙腺にきますよ…。
冒頭で、僕が彼女に対して言ったセリフだという印象づけをしたうえで、クライマックスでそれを遺書の中で彼女に言わせているという演出が上手い。
話題になっているだけあって、素晴らしい小説だった。
映画化もされるみたいだし、そちらも楽しみ。
蛇足だが、2人が旅行で行ったであろう博多および太宰府天満宮は、たまたま去年自分も行ってたこともあり、そのあたりの情景は非常にイメージしやすかった。
自分の食べたモツ鍋はそこまで美味しくはなかったのだけれど。
博多に行った際はモツ鍋より水炊きをオススメします。